劉備が蜀をてにいれるまでの道のりは？その道のりをご紹介！

三国志の名の元にもなった、三国時代を形成した一国、蜀しょく。

劉備りゅうびが益州えきしゅうに建てた国ですが、益州えきしゅうは劉璋りゅうしょうが治めており、天嶮てんけんの地でもありました。その益州えきしゅうを獲ることは容易ではなく、二年もかかった大激戦でした。

しかしこのことが劉備りゅうびにとっては最重要なことであり、この地盤を得たことで曹操そうそうとの漢中かんちゅう争いに勝ち、漢中かんちゅう王、そして皇帝への道が開けたと言えるでしょう。

今回はその蜀しょくを手に入れるまでの道のりを順を追って紹介したいと思います。

蜀しょくを手に入れようとしたきっかけは？

時は208年、赤壁せきへきの戦いの後、劉備りゅうびはどさくさに紛れて荊州けいしゅうの江南こうなん諸郡しょぐんを制圧し、大きく勢力を伸ばします。この時、手柄てがらを横取りされたと憤るいきどお孫権そんけんと一触即発になりますが、魏ぎに対抗する上で劉備りゅうびが必要と説いた魯粛ろしゅくの仲介ちゅうかいで孫権そんけんは妥協だきょう。結局劉備りゅうびは、益州えきしゅうを得るまで南郡なんぐんを拝借はいしゃくするという形式になります。

劉備りゅうびは以前からの諸葛亮しょかつりょうの進言の通り、益州えきしゅうの劉璋りゅうしょうを攻め落とす機会を狙っていました。そして孫権そんけんもまた益州えきしゅうを狙っていましたが、周瑜しゅうゆの死によって単独での侵攻しんこうを諦め、劉備りゅうびに協力を求めています。この提案に乗るべきという意見もある中、殷観いんかんの孫権そんけん軍の先駆けさきがとなるよりも独力で攻めとるべき、という提案に従い、孫権そんけんの益州えきしゅう攻撃に賛成しつつも曖昧あいまいな態度を示すと、孫権そんけんは益州えきしゅう攻撃を断念しました。

益州えきしゅうの張松ちょうしょうの企み

そして時は流れ211年、益州えきしゅうの劉璋りゅうしょうから曹操そうそうと同盟どうめいを結ぶように言われた張松ちょうしょうが劉備りゅうびを訪ねてきます。

張松ちょうしょうは曹操そうそうとの提携ていけいを模索もさくするため使者ししゃとして曹操そうそうの下へ向かいますが、冷遇れいぐうされすっかり愛想あいそを尽かしていました。そこで心からの歓待かんたいを受け、劉備りゅうびを気に入り、惰弱だじゃくな性格である劉璋りゅうしょうを見限り、排除はいじょして劉備りゅうびを新たな君主くんしゅに迎えようと企むたくらのです。

法正ほうせい達により益州えきしゅうに引き入れられる

益州えきしゅうに戻った張松ちょうしょう、曹操そうそうのことをボロクソにけなし、劉備りゅうびを持ち上げ、曹操そうそうや張魯ちょうろに対抗するために引き入れることを進言します。黄権こうけんや劉巴りゅうはらが猛反対しますが、劉璋りゅうしょうは張魯ちょうろを恐れていたため、乗り気になって法正ほうせいと孟達もうたつを劉備りゅうびへの使者ししゃとして派遣はけんします。

しかし、既にこの2人も張松ちょうしょうとグルであり、劉璋りゅうしょうを廃立はいりつしようとしていました。法正ほうせいは劉備りゅうびに益州えきしゅうを取る方策ほうさくを語り、これを受けた劉備りゅうび、要請ようせいがあったことを名目めいもくに、黄忠こうちゅう、魏延ぎえんのような猛将もうしょう、軍師として龐統ほうとうを伴い、2万の兵力を率い、法正ほうせい、孟達もうたつを引き連れて蜀しょくに入ります。

劉備りゅうびの甘さ

涪ふに至ったところで劉璋りゅうしょうは大喜びで自ら出向き、歓迎の宴を催し兵力1万と戦車や武器や鎧などを与えます。これで劉備りゅうび軍は総勢3万人となりました。能天気な劉璋りゅうしょうは劉備りゅうびが自分に代わって張魯ちょうろを討ってくれると信じて疑っていないのです。そこで法正ほうせいや龐統ほうとうらの参謀さんぼうは、ここで劉璋りゅうしょうを暗殺あんさつすれば手間が省けると進言しますが、劉備りゅうびは益州えきしゅうに入ったばかりであり、人心じんしんを得るのが先決であるとこれを却下きゃっかします。

もちろん新野しんやの領民りょうみん、10万人を見捨てることができなかった劉備りゅうびが、自分を心から信頼してくれている劉璋りゅうしょうに対し、そんなことできるはずがありません。その甘さが劉備りゅうびの欠点でもあり、海より深い人徳じんとくとしての長所でもあるのですが。

葭萌関かぼうかんに駐屯ちゅうとんし張魯ちょうろ討伐！のフリ

劉璋りゅうしょうの要請ようせいに応じて、一応張魯ちょうろ討伐に赴こうと、漢中かんちゅうの手前の葭萌かぼう関に駐屯ちゅうとんした劉備りゅうび。しかしそこで目立った軍事行動は起こさず、人心じんしん収攬しゅうらんなどに務め、蜀しょく征服の足掛かりを築くことに努めました。

劉璋りゅうしょうはいつまで経っても軍事行動を起こさない劉備りゅうびに対し、次第に苛立いらだちと不信ふしんを募らせていきます。そんな折、212年、曹操そうそうと孫権そんけんが揚州ようしゅうを巡って戦闘状態となり、「濡須口じゅしゅこうの戦い」と呼ばれる戦が起きます。

そこで孫権そんけんは劉備りゅうびに援軍えんぐんを求めます、これをネタにさらに劉璋りゅうしょうから兵力を巻き上げて東へ行こうと兵4000を希望しますが、劉璋りゅうしょうは劉備りゅうびを疑っており、僅かな兵力しか与えませんでした。

そして荊州けいしゅうでは関羽かんうが楽進がくしんと対峙たいじしており、張魯ちょうろは城に籠っているから心配要らないと、劉備りゅうびはひとまず荊州けいしゅうへ戻ろうとしていました。

張松ちょうしょうの悲劇

この時、成都せいとに残った張松ちょうしょうは劉備りゅうびの行動の遅さに苛立いらだち、しかも荊州けいしゅうに帰るということで意図いとを疑ったため、劉備りゅうびと法正ほうせいに手紙を送りますが、その手紙が漏洩ろうえいしてしまい、クーデターを起こそうとしていた企みが劉璋りゅうしょうにバレてしまいます。張松ちょうしょうは一族皆殺しになり、劉備りゅうびの野心も露見ろけんしてしまうのでした。

バレて腹を括り成都せいとへ侵攻しんこう開始

本心がバレてしまった劉備りゅうび、腹を括って成都せいと侵攻しんこうを決意、そして龐統ほうとうの策略さくりゃくを用いて、白水関はくすいかんを守る劉璋りゅうしょうの武将である楊懐ようかいと高沛こうはいを斬り殺して、白水関はくすいかんを占領せんりょうします。そして、葭萌関かぼうかんに霍峻かくしゅんを置いて守らせると、劉璋りゅうしょうから借りた将兵しょうへいとその妻子さいしを人質ひとじちにして、自らは黄忠こうちゅうや卓膺たくよう、魏ぎ延らと共に、成都せいとを目指して進撃を開始したのです。

劉璋りゅうしょうの悪あがき

慌てた劉璋りゅうしょうは劉備りゅうびの進撃を防ぐため、張任ちょうじん、冷苞れいほう、劉璝りゅうき、鄧賢とうけん、呉懿ごいを派遣はけん。しかし劉備りゅうび本軍は張任ちょうじん、冷苞れいほう、劉璝りゅうき、鄧賢とうけんらを破り、涪ふ城を陥落かんらくさせ、さらに綿竹めんちく関の総指揮官である李厳りげんや費観ひかんを降伏こうふくさせる快進撃を続けます。

さらに呉ご懿ら劉璋りゅうしょう軍の武将が劉備りゅうびに投降とうこうするなど、劉備りゅうび軍が優勢ゆうせいなまま戦況せんきょうは進みました。なかでも一軍を任された黄忠こうちゅうは常に先駆けさきがて敵の陣地じんちを攻め落とすなど一番手柄てがらを記録し、その勇猛ゆうもうさは三軍の筆頭ひっとうだったといわれています。

鳳雛ほうすう、地に堕ち戦場に散る…

順調に進撃を続けていた劉備りゅうび軍でしたが、綿竹めんちく関の次にある雒らく城は、成都せいとを守るだけあり難攻不落なんこうふらくでした。守るのは張任ちょうじんと劉循りゅうじゅん、特に張任ちょうじんは名将めいしょうであり、雒城らくじょうに立て籠もって徹底抗戦こうせんてっていこうせんする彼らを陥落かんらくさせるのは容易ではありません。

そしてここで劉備りゅうびは龐統ほうとうを失う痛手いたでを負ってしまうのです。

張任ちょうじんは、雒城らくじょうの手前の落鳳坡らくほうはという細い道に伏兵ふくへいを仕掛けます。劉備りゅうびが白馬に乗っている情報を得ていたため、白馬が現れた瞬間に矢の雨を降らそうと考えました。そして白馬に乗った劉備りゅうびが現れるや否や、張任ちょうじんの伏兵ふくへいは矢の雨を降りそそぎます。

張任ちょうじん「やった！劉備りゅうびを仕留めたぞ！」

喜び勇んで姿を現す張任ちょうじんですが、矢を全身に受け落命していたのは劉備りゅうびではなく、龐統ほうとうでした。

龐統ほうとうが撃たれた理由

何故龐統ほうとうが劉備りゅうびの白馬に乗っていたのでしょうか？龐統ほうとうは「落鳳坡らくほうは」という地名に嫌な予感を感じていました、鳳凰ほうおうが落ちるという意味、そして自分の二つ名は「鳳雛ほうすう」。そこで龐統ほうとうの愛馬あいばが暴れ、足を挫いたため、劉備りゅうびが自分の愛馬あいば、的盧てきろを貸していたのです。その予感が的中してしまい、龐統ほうとうは36歳の若さで戦死してしまいました。劉備りゅうびは龐統ほうとうを失ったことを悲しみ、思い出す度に涙を流したと言います。

ちなみに正史せいしでは龐統ほうとうが戦死した場所、ということで後から落鳳坡らくほうはと名付けられています。

伏龍ふくりゅう参戦

同じ頃、劉備りゅうびが葭萌関かぼうかんに残した霍峻かくしゅんは、劉璋りゅうしょう軍の扶禁ふきんと向存しょうそんの1万の軍勢に包囲されていました。このままでは危ないと感じた劉備りゅうびは諸葛亮しょかつりょうに使者ししゃを送ります。

龐統ほうとうの死を知った諸葛亮しょかつりょう、その要請ようせいに応え、荊州けいしゅうを関羽かんうに任せ、張飛ちょうひと趙雲ちょううん、劉封りゅうほうを連れて劉備りゅうびの援軍えんぐんに向かいます。張飛ちょうひは江州こうしゅうを守る老将ろうしょう、厳顔げんがんを撃破げきはして味方に引き入れました。厳顔げんがんが毅然きぜんとした態度を示したため、張飛ちょうひはその人物を評価して、厳顔げんがんを賓客ひんきゃくとして厚遇こうぐうしたといわれています。

張飛の性格は乱暴者？お酒でパワハラを連発していた？後世の創作も多かった！

諸葛亮しょかつりょうはゲリラが出るのを防ぐ為に、張飛ちょうひに命じ巴西はせいから徳陽とくようを制圧させ、趙ちょう雲には江陽こうよう、犍為けんいまで進軍させてひとつ、ひとつ、しらみ潰しに都市を攻略した上で成都せいとに向かいました。張飛ちょうひの軍勢は劉璋りゅうしょう軍との全ての戦いで勝利したとされています。

次々と劉備りゅうびに寝返る諸都市の中、広漢こうかん県を守る黄権こうけんは堅く門を閉ざして防備を怠らず、終戦しゅうせんまで広漢こうかん県を守り通しました。

劉備りゅうびはその忠義を賞賛したといわれています。

成都せいと開城

援軍えんぐんを得たことで勢いを盛り返した劉備りゅうび軍、龐統ほうとうを失い、1年以上もかかるなど大いに苦戦した雒城らくじょうも張任ちょうじんを倒したことで弱り、劉循りゅうじゅんは成都せいとに退却したことで陥落かんらくさせることができました。

葭萌関かぼうかんで包囲を受けていた霍峻かくしゅんも1年に渡り守り通し、数百の軍勢の中から精鋭せいえいを選抜し、城外へ出撃して扶禁ふきん・向存しょうそんを破り、向存しょうそんを斬りました。

こうして夏頃、劉備りゅうびは諸葛亮しょかつりょう、張飛ちょうひらと合流して成都せいとを大軍で包囲します。この時、蜀しょく郡太守の許靖きょせいが劉璋りゅうしょうを見捨て、城を脱出して降伏こうふくしようとしますが、発覚して捕らえられます。しかし事態が逼迫ひっぱくしていたため、劉璋りゅうしょうは許靖きょせいを処罰しょばつしませんでした。

粘る劉璋りゅうしょう

大軍に囲まれた劉璋りゅうしょうですが、成都せいと城中に3万の兵と1年分の兵糧ひょうりょうがあり、備えが充分で将兵しょうへいも意気盛んであることから籠城ろうじょう戦で抗戦こうせんしようとします。

そこで劉備りゅうびは策を弄します。張魯ちょうろの下に寄寓きぐうしていた馬超ばちょうの下へ李恢りかいを派遣はけんし、自軍に降るように誘うのです。馬超ばちょうは張魯ちょうろと不仲になっており、その配下の楊白ようはくらとも対立していたため、八方塞がりになっていました。そこで渡りに船と、この誘いに乗って成都せいとまで降りてくることになります。

益州えきしゅうで広く猛将もうしょうとしての有名が轟く馬超ばちょうが劉備りゅうびに帰順きじゅんしたことを知った劉璋りゅうしょうは震撼しんかんし、心がポッキリと折れてしまいました。官民かんみんの多くは劉備りゅうびと戦う覚悟であり、鄭度ていどのように焦土しょうど作戦を進言するものもいました。焦土しょうど作戦が行われるかもしれないことを心配していた劉備りゅうびですが、法正ほうせいは優柔不断で領民りょうみん思いな劉璋りゅうしょうはそれを採用できないだろうと安心させ、自身は劉璋りゅうしょうに手紙を送り、降伏こうふくを勧告かんこくします。

蜀の陥落

そして214年夏の5月、劉備りゅうびが簡雍かんようを降伏こうふく勧告かんこくの使者ししゃとして送り込むと、劉璋りゅうしょうは「我々親子は20年以上も益州えきしゅうを統治とうちしたが、人々に恩恵おんけいを施した事が無かった。人々が戦いに3年も明け暮れて血を流したのは私のせいだ。どうして平気でいられようか、わしはもはや領民りょうみんを苦しめたくない」と言って城門を開き、自発的に劉備りゅうびに降伏こうふくしました。この降伏こうふくに家臣は全員、涙を流したといいます。

こうして2年に及んだ劉備りゅうびの蜀しょく獲りは完了したのです。劉備りゅうびは劉璋りゅうしょうの身柄みがらと財産を保障し、振威しんい将軍の印綬いんじゅを与えた上で公安こうあんに送り、自ら益州えきしゅう牧となります。豊富な物資と精強せいきょうな軍勢を手に入れると共に、黄権こうけんや劉巴りゅうは、許靖きょせいなど劉璋りゅうしょうの旧臣を積極的に召抱えて陣容じんようを充実させました。

益州えきしゅうという土地、物資、軍勢、人材を手に入れましたが、その代償だいしょうに龐統ほうとうを失っています。龐統ほうとうの死で諸葛亮しょかつりょうの負担が激増したとされていますが、もし龐統ほうとうが生きていれば…、と思う場面はたくさんありますね。しかし、益州えきしゅうを得ることができていなければ蜀しょくが建国されることはなかったでしょう。