人の人生はエンドロールで完成する。
喜びのままに終われば喜劇となり、嘆きとともに散れば悲劇として語り継がれる。
とまぁ何やら語りましたが、ようするに人間散り際は肝心という話。
戦乱に生きるものなら尚そうあるべき、と考えてしまうのは少々ムシの良い話かもしれませんが、歴史という物語を紐解くものとしてそう願ってしまうのは仕方のない話ともいえるでしょう。
これからお話するのは、そんな我々の都合の犠牲になってしまった人物の物語です。
目次
名は于禁、字は文則
始まりは黄巾の乱から、同郷の鮑信が義兵を募った際に彼に付き添う形で参加します。
鮑信は儒学の教えを代々受け継いでいた家柄の出身で、義に厚く仲間想いの人物でした。
そのため質素を重んじ周囲に施しをよくしていたため、彼を慕うものは多かったと言われています。
そんな評判を耳にしたら、この男が黙っているはずがありません。
曹操「オッス、オラ乱世の奸雄」
ご存知節操なしのこの男、いい人材がいると聞けば農民だろうが貧民だろうが人殺しだろうが何でもござれの人材マニア。
三国一のインテリヤクザ、曹孟徳でございます。
反董卓連合軍の中で両者は知り合い、お互いに高く評価し合う関係だったと言われています。于禁もその際に知り合い既知を得たと推測されます。
その後、黄巾党の残党との闘いの中で、奇襲を受けた曹操を助けるために鮑信はその命を散らしてしまいました。
そうした流れの中で、鮑信の仲間だった于禁は曹操の下に仕えることになります。
で、その後のことなんですが、于禁は勝ちまくります。以上。
・・・・・・・。
いえ、あの、すいません。でもホントのことなんです。
もう少し詳しく語りますね。
負け知らずの鉄面皮野郎、猛将・于禁
于禁といえば、あちこちで聞くのはろくでもない評判ばかり。
「自害した仲間を差し置いて自分だけ降伏したヘタレ」だの「命乞いで晩年を汚した不忠者」だの、某魏延ばりに墓の上からボロカス言われる有様でした。
よくわからない方は後で説明いたします。
ですが、よくよく見てみるとこの男。それだけの男ではない模様。
ていうか、その晩年の評判だって決めつけてかかるのは迂闊だぞ。
だって強すぎるんだものこの男。
一時期は張遼・楽進・張郃・徐晃と並ぶ名将とうたわれており、征伐に出る時は先鋒や殿などの大事な役割を持ち回りで担当していたって話です。
性格は剛毅で威厳のある人物だったといわれています。
ていうか、早い話がクソ真面目な男です。
彼は兵を従えるために法律を重要視する人物でした。
規則に厳しい于禁の姿
その姿は厳格そのもので、かつての友がおこした反乱を鎮圧した際には、降伏した旧友を『包囲された後に降伏したものは許さない』という法に基づき涙ながらに処刑しています。
これには曹操も苦笑い。言うこと聞かない奴絶対ぶっ殺すマンなお前が言えたことでもねぇけどな。
堅物な石頭、といってしまえばそれまでですが、その厳格さを損なわないだけの格が于禁にはありました。
降ってきた武将が于禁の下に付いた際、彼のあまりの厳格オーラに誰も何も言えなくなったことがあるようです。
また基本的に法を厳守するという厳格な面は部下を従えるための一面であったようで、貰ったものは部下に分け与える慎み深い人物であったとされています。
法律を尊守する堅物なのであまり部下から慕われる人物ではないようでしたが一定の支持はあったようで、張繍の謀反で曹操を助けるために激戦をかいくぐった際にも、死者こそありましたが彼の下を離れる部下はいなかったという逸話が残っています。
更に付け加えるなら、堅物にありがちな狭量さや保身に走る臆病さ等とも無縁で、非常に頭も切れ豪胆な部分もあったようです。
曹操に一目置かれていた兵が略奪を働いた際に、于禁は真っ先に彼らを咎めシバき倒しますが、それを逆恨みした彼らは曹操の下に出向き告げ口をするという事件が起こります。
周囲は于禁に弁明をするよう彼に進言します。
ですが于禁は「敵が近いのに備えもないままに持ち場を離れられない。それに曹操様は聡明な御方だ。告げ口は無意味だ」と告げます。これに曹操はいたく感心し「そなたは何事にも動じない節義があり、古の名将に勝る」と称賛したといわれています。
武勇については先にも述べた通り、具体的には呂布の陣営にカチコミ仕掛けて拠点陥落させて帰ってきたり、袁紹との戦いでは防衛線を粘り強くこなしたり、最終的には左将軍として曹操軍の筆頭にまで上り詰めました。
ここまでの話だとまさに名将。曹操軍のベテラン将校といってもいい漢であります。
ですがここから悲劇が始まります。
そう、みんな知ってるかもしれないあの事件です。
樊城の戦いにて、于禁晩年を汚す
折りしは樊城の戦い。簡単に言うと荊州南陽群の領地の奴らが関羽と結託して反乱を起こし、関羽軍と曹操軍が激しく激突します。
曹仁率いる樊城内の軍勢と、それに攻め入ろうとする関羽軍。
そして曹操の命により曹仁の援護に向かった龐徳と于禁という構図です。
しかしここで于禁達にとって思わぬ事態が起こります。
関羽の水攻め、と聞けばピンと来る方もいるかもしれません。
豪雨により激しい洪水に見舞われた曹操軍。
高所に陣取り水軍まで用意していた関羽軍はこれ幸いと龐徳、于禁を攻め立て彼らを撃破します。
ここで龐徳は降伏を勧める仲間を切り捨ててまで戦い抜き最後は斬首に処されますが、
于禁はなんと関羽に降伏してしまいました。
これにショックを受けたのが長年彼を頼りにしてきた曹操です。
「30年以上も仕えていた于禁が龐徳に及ばなかったとは思わなかった」とたいそう嘆いたといいます。
やがて于禁は関羽軍を攻めていた孫権軍に捕虜として囚われ、その後魏に送り返されたといいます。
端から見れば敵にあっさり下り魏への忠義を貫ききれなかった彼に、曹操亡き後にその跡を継いだ曹丕は冷たい仕打ちを与えます。
まずは捕虜から解放された于禁をいったんは労います。しかしその後彼に、自身が関羽に降伏する姿を描かせた絵を見せつけます。
于禁はそれを見て自分への面目なさと腹立たしさのために病に倒れ、やがて亡くなってしまいました。
彼に対する嘲りは死後も続き、死んだ貴人に贈られる贈り名に『無辜の者を殺害した』『災い』を意味する言葉を送られてしまいます。
樊城の失態の真実とは?
先も言いましたが、この晩年の扱いは後世にまで語り継がれています。
ただ一つの汚点が武功名高い名将を悲運の武将にしてしまったわけです。
ですが、ここまでの流れで多くの方が疑問に思ったはずです。
「本当に彼は不忠の将だったのか?」と。
そうした疑問を持ったままこの戦いを見てみると、また違った側面が見えてきます。
最後にそのあたりをご紹介していきましょう。
(1) 水攻めについて
いきなり話の腰を折りますが、まずは定番の于禁の精神自体が参ってしまったという通説。
ですがよくよく考えれば、水攻めというものはなかなかにつらいもの。
現代の水害を考えてみればわかる通り、水に飲まれた区域の生活環境は崩壊します。
あらゆるものが汚水に飲まれ、使い物にならなくなります。
また当時の衛生環境を考える、厠なんかの汚物が混じっていたかと思うと・・まぁ地獄絵図ですよね。
てんやわんやのパニックの中、敵だけはちゃっかり高台の上。
いつでもこちらの首を取りに来れるといった状態です。
完全に運に見放された于禁軍が降伏を選んだというのも、無理からぬ話という説もあります。
それを裏付けるように、魏軍の名軍師・司馬懿もこの件について「彼らは水攻めに遭い敗北したのであって不忠を働いたわけではない」と弁明しています。
そんな中で部下の懇願を切り捨てた龐徳の判断もまた、蛮勇といえるのかもしれません。
(2) 于禁の策略説
この于禁の降伏劇、ただ関羽が魏軍を打ち破っただけ話ではありませんでした。
ご存知の様にこの後、関羽軍は呉の援軍と結託した魏の軍勢に敗れ、捕縛されています。
その背景に実は彼に降った于禁軍の存在があるのです。
于禁軍を捕虜にした関羽軍ですが、万単位の兵を収容したせいで兵糧やらを予想外に消費してしまいました。
樊城を攻めながら後方からの援軍も迎え撃つというギリギリの綱渡りをしていた関羽軍にとってこれは致命的な敗因のひとつとなったのです。
これは果たして、単なる偶然だったのでしょうか。
先にも述べたように、于禁には厳格で意思の強い武将として知られていました。
ただ怖気づいて降伏した、と決めつけるのはあまりにも不自然です。
実際に「これは于禁の策略だったのでは」という説もいくつか聞かれています。
付け足して言うなら、この後于禁はその身柄を呉軍に引き渡されしばらく彼らの保護下におかれます。
その際に彼のことを『不忠者!』と罵った者に対して、彼は心を痛めながらも何の言い訳もせず、むしろ彼のことを褒めたと言われています。
時がたてば人は変わります。
ですが彼の中には、まだ厳格に自分を律する精神が残っているように見えました。
晩年を恥で染めた悲劇の将、そこには最後まで自分なりの戦い方で主に尽くそうとした男の意思があったのかもしれません。
最期に
いかがだったでしょうか、
この記事を通じて、于禁という武将に興味を持っていただけたら光栄です。
最後の最後にオチ代わりの豆知識をば。
この于禁、アニメ版三國志で一回女体化してます。何故じゃ。
でも赤壁の戦いで戦死します。何故じゃあ!
名作”三国志 Three Kingdoms”を無料で視聴する方法
三国志は映画やドラマなどいろいろな作品がありますよね!
その中でも本場・中国で制作された”三国志 Three Kingdoms”は名作との呼び声が高く、管理人自身自信をもってお勧めできる三国志ドラマです。
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