大喬・小喬は、呉の建国の礎を築いた孫策と周瑜に嫁いだ美人姉妹です。
三国志演義では、袁術から自立した孫策が周瑜とともに喬国老のもとを訪れて、孫策は姉の大喬を、周瑜は妹の小喬を娶ったということになっています。
孫策の死後、河北を平定した曹操が荊州をも手中に収めて江東に迫ってきた際には、
「曹操は江東の二喬を銅雀台に住まわせて老後の楽しみにするつもりだ」
という話を聞いた周瑜が激怒して開戦に踏み切るという話になっています。
今回は、三国志前半のヤマ場でキーパーソンとなったこの姉妹の虚実に迫ってみます。
目次
Three Kingdomsで描かれた大喬・小喬
2010年の中国のテレビドラマである『Three Kingdoms』では、ある日、竹林で琴の音を聴いた孫策と周瑜が音の主を探して喬国老の庵を訪れます。
幼少より音楽にも精通していた周瑜は、竹林では音が1音だけ間違っていたことに気付いていました。
そこで、孫策は庵でもう1度弾いてもらうことを提案し、姉妹は交代で竹林の中弾いていた曲を弾きます。
それを聴いた周瑜は、2人とも素晴らしいと感想を述べました。
本当にあの日の1音の誤りが直っていたのか、それとも、誤ったままであることに気付きながらも指摘しなかったのかはわかりませんが、その後の展開を暗示する対応といえましょう。
英雄に見初められた大喬
孫策は喬国老の家から戻った後、袁術の勢力に対応するかたわらで、音楽の勉強を始めます。
それを知った周瑜は、孫策の真の目的が音楽ではなく喬姉妹であることを見抜きます。
すぐに見破られた孫策は笑いながら、「我々が喬姉妹を娶ることにしてはどうか?」と提案します。
こうして、江東の2人の英雄のもとに美人姉妹が嫁いだという話になっています。
2人の女優の美貌はもとより、竹林での演奏風景も含めて、しなやかで美しいシーンです。
史実から見る二喬
では、この美人姉妹は実際はどんな女性だったのでしょうか?
それを理解するためには、当時の江東の情勢を知る必要があります。
父・孫堅の死後、袁術の麾下に入った孫策は、劉繇を討つと偽って袁術から自立し、短期間で江東を支配下に収めます。
さらに、袁術の死後、旧袁術勢力を吸収した劉勲を欺いて宗教勢力を攻めさせ、その隙に皖を攻め取ります。
皖には袁術の妻妾だけでなく劉勲の妻子らもいたのですが、彼女らは皖陥落の際に孫策の手に落ちたのです。
そして、そのなかに大喬と小喬だけでなく、孫権に嫁ぐことになる歩夫人も含まれていたわけですから、
ロマンティックな出会いを経て結婚したというよりは、孫策によって強奪されたと言った方が実態に即しています。
捕えられた喬姉妹らは江東に送られるのですが、
孫策は、「彼女らは故郷を失ったが、姉は私に、妹は周瑜のもとに来たのだから満足であろう」と言ったという話もあります。
夫・孫策の悲劇
大喬を得た孫策でしたが、「小覇王」と呼ばれるほどの急激な勢力拡張によって敵も多く作りました。
孫策は200年4月、自ら粛清した許貢の食客に襲われ、その時の傷がもとで死去します。
『Three Kingdoms』では、死の直前の孫策は、大喬と「長年連れ添った」と述べていますが、皖攻略は199年の冬ですから、大喬を得てからたった半年しか経っていないのです。
また、『Three Kingdoms』では、孫策の死後、位を継いだ弟の孫権と孫策の子・孫紹の間の二重権威問題を回避するために
、母親の大喬がまだ赤ん坊の孫紹を抱いて江東から身を退く切ないシーンがありますが、
孫策は大喬を得てから半年後に死去しているわけですから、赤ん坊が大喬の子であるとしたら、
その子は孫策との間の子ではないのではないかという話もでてくるわけです。
周瑜と小喬
次に、周瑜に嫁いだ妹の小喬をみてみましょう。
映画・『レッドクリフ』でのリン・チーリンの演技がまだ記憶に新しいことと思います。
『Three Kingdoms』では、三顧の礼で劉備に迎えられた諸葛亮が、周瑜邸での魯粛をまじえた密談の席で、
曹操には歯が立たないとか自分の墓を荒らされたくないとか、
心にもないことを言って様子をみる周瑜から本心を引き出すために曹操の二喬に対する野心を伝えるという設定になっています。
諸葛亮の策に乗せられて激怒した結果、本心を曝け出してしまうという展開は、周瑜の死去のシーンまで続く「
諸葛亮の優秀さの引き立て役としての周瑜」という役回りの始まりともいえるでしょう。
三国志演義は、蜀漢を正当とみなす思想に基づいて組み立てられていますから、
蜀漢の丞相となった諸葛亮の価値を脅かす存在には損な役回りが与えられるのです。
小喬に訪れた突然の通告
わずか半年で孫策と死別した大喬とは異なり、小喬はその後も周瑜のもとにおります。
ただ、『Three Kingdoms』では、夫が築いた江東の安定のために赤子を抱いて自ら身を引いた大喬とは異なり、小喬は赤壁の戦いの際も夫に随行して陣中で夫を支えようとします。
曹操の意を受けた蒋幹が幼馴染みの周瑜を引き抜きに現れた際、剣の舞を披露するなどして偽情報を曹操のもとに持ち帰らせることに一役買った面もありますが、
陣中で周瑜の気性を諫めるなど、周瑜を不快にさせることもありました。
決定的だったのは、周瑜が諸葛亮の才は江東にとって脅威となるとして同人を殺害しようとしているにもかかわらず、
「辰巳風を吹かせることによって夫を救ってくれた」という理由で諸葛亮を救ってしまったことです。
国家の大事に私情を持ち込んだ小喬は、周瑜から離縁されてしまいました。
姉は自ら身を引き、妹は夫に随行したという違いはありましたが、両者とも夫と悲しい形で別れる女性として描かれています。
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